2015.03.27 Friday
【キレイファイター】(9)豊田真奈美選手に聞く、先輩と後輩に必要なもの
第9回キレイファイターは、女子プロレス全盛期の全日本女子プロレス(通称全女)で、黒髪の飛翔天女としてエースを守り続け、プロレスラー人生28年目を迎える豊田真奈美選手の登場です。年を重ねるごとに軽やかに人生を変えていくファッション誌の女性像とは反対に、時代に合わせることなく「自分のまま」スイスイと人生を泳いでいく。マイペースで群れることなく明るく強い、けれど気付けば後輩に囲まれている、そんな豊田選手に28年分の先輩と後輩のこと聞いてみました。
「今度はあたしがあんたの付き人をやってあげるね」って。
本当にこの先輩に付いていってよかったと思いました。
――そろそろ新社会人が入社してくる季節なんですが、豊田選手はプロレス業界では圧倒的に「先輩」ですよね。試合を見せていただいて感動してしまうのが、今なおベルトが狙える強さ、それからデビュー当時からのトレードマークである「つやつやの長い黒髪」が健在だってことです。きりりと引かれた強めの色の口紅も好きです。デキる先輩の美人オーラが素晴らしいです。
★どうしよう。ありがとうございます(照)。さっきまでボサボサだったんですけどね。
――ボサボサって、何があったんですか?
★傘忘れちゃって、ずぶ濡れだったんです(笑)さっきの店の化粧室にコンセントなかったら、お見せできない状態でした。
――見た目と違ってウッカリさんというお噂は聞いていましたが、まさか本当だとは。確か昨日から雨の予報だったような…。
★昔から「リングに上がると格好いいけど、リング降りるとボサボサだよね」って言われるんです。褒めてもらっちゃったけど、今つけてる口紅も試供品だし、髪洗ったら結わいたまんま寝ちゃうし…。
――90年代クールビューティーと謳われた豊田真奈美像が……。
★すいません。あ、でも、えっと……とりあえずトリートメントは高いです!!! 少しだけ癖っ毛なので、年に2回は縮毛矯正をかけて、トリートメントは一番いいので15000円くらい。やるときはやるぞって感じですね☆もう、つるんつるんになります♪ ほんとにつるんつるん。ふふ。でも、何日か経つとそうでもなくなっちゃう……?
――それ、洗ったまましばって寝ちゃうからです!豊田さん!
★あ、そっか。そうねぇ(汗)でもね、ほんとに、リングに上がる時だけは全力でいろんなもの出してます。入場曲が流れて扉が開く瞬間からはパチッと『豊田真奈美』です。普段は酒飲みのおっさんです。ふふ。よく家に後輩を呼んで宴会するんです(といって携帯の写真を見せてくれる)。ブリをねネットでよく買うの。
――魚の、ブリのことですよね…?……1本まるごとの話してます?
★はい。1本買います♪
――お魚さばけるって女子力高いですけど、アジや鯛じゃなくブリって!女子力超えて…親方レベルです。
★ブリは生でよし、焼いてよし、煮てよし、捨てるとこないんです♪ わたし料理が大好きなのね、美味しいものは大勢で食べたほうが楽しいじゃないですか。だからお魚ドンとさばいて、みんなで。で、ちょっとだけ飲みすぎちゃうし食べ過ぎちゃうんですけど。後輩はみんな大好きなんですよ。可愛くてしょうがなくて。先輩はきらいっ(笑)後輩のほうはわたしに気使うんだろうけど…でも、なんだか最近あんまり気使われてないキャラになってる気もするかな。うちの酒蔵、後輩に荒らされてるし!
――ブリ1本さばいてご馳走してくれる先輩宅があったら、わたしも入り浸りたいです。後輩の面倒見はいいほうなんですか?
★いえ。どっちかといえば誰かを1人だけ可愛がるとか、あんまりしたことなくて。
――少しそんな気がしてました。あまり他人に対してお節介しなさそうな人だな、むしろマイペースなんだろうなって。でも、藤本つかさ選手(キレイファイター第6回ゲスト)とベルトを賭けた試合をした後で、後輩の藤本選手に対してぶわーーっと愛情があふれた笑顔を見て、もしかして瞬間的に愛情が爆発するタイプの人なのかなと思いました。
★もともと話すのは上手じゃないからあまりいい言葉をかけてあげられないんです。変なこと言っちゃうんで、リングでもマイク持っちゃいけないタイプなんですけど。まあでも、なんか、それでも伝えたかったってことなんでしょうね。
――きっとそうですね。言葉っていうか、全身から出てました!素敵な先輩像として、すごく印象に残った試合でしたね。で、これは28年のキャリアの中でいい出会いがたくさんあったに違いないと。誰もが素敵にキャリアを重ねたいし、単純に素敵になりたい。素敵になろうと頑張ってる女子はキレイナビ読者にもたくさんいるけれど、実はひとりでは素敵になれないんですよね。豊田選手はどんな先輩に影響を受けましたか?
★新人の頃、クラッシュギャルズと同時期にいたJBエンジェルスの山崎五紀さんの付き人をしてました。クラッシュのボーイッシュな人気と反対にJBは女性らしさで人気があるユニットで、五紀さんが黒髪のストレートロングでドロップキックの名手だったんです。「わたしも五紀さんみたいになりたい」と思って、だからわたしも黒髪のロングだし、得意技はドロップキック。
――憧れの先輩に出会ってしまったんですね。
★当時は後輩に何から何まで雑用をさせる先輩が多かったんですけど、五紀さんは違っていて自分でできることは自分でするという珍しい人でしたね。選手としてだけでなく、人としても尊敬できる先輩。だからわたし自身が先輩になったとき、自分でできることは自分でやろうという姿勢になりました。
――確か今はご結婚されてNYにお住まいとか。
★はい。でもいまだにちょこちょこ連絡をくれるんです。何年か前にアメリカで試合をする機会があって、五紀さんの家にお世話になってたんです。フィラデルフィア、ボストン、マンハッタンとツアーで回ったんですけど、会場に向かう車に乗り込むときに「とよたー。今回あたしがあんたの付き人やってあげるからね。今まで散々やってもらったものね」って。それを聞いた瞬間、やっぱりこの人に付いていってよかったって思いました。本当に素晴らしい先輩なんです。
後輩の立場から言ったら
先輩に面倒を見てもらう必要はないかな。
――ところでどんな業界でも、先輩後輩の関係はずいぶん変わってきていると言われますよね。先輩としては厳しさの加減や、そもそもコミュニケーションのとっかかりに悩む人も多いようですが。
★そうですね。上下関係というものが通用しずらいですよね。プロレス業界でさえガチガチの上下関係じゃなくなったかな。フレンドリーというか、みんなちょっと馴れ合いっぽいところもあったり。でも、昔みたいに厳しくしたら下の子は絶対ついてこれないしね。それは世の中どこもそんな感じだと思います。
――上下関係を重視しないようにしようという風潮もあるかと思いますが。
★でも、あるなしで言ったら上下関係は必要。あの、なんて言えばいいかな…んんー、上下関係がないと単純に後輩は育っていかないんですよね。
――確かに、上下関係のマイナス面ばかりを拾いあげると、良い面も一緒に失われてしまう気がします。
★わたしに先輩がいた頃は、年間300試合もするような時代だったので本当に大変でした。練習も試合も辛いし、怖い先輩は本当に嫌だったし。でももし、先輩後輩の関係がゆるくて楽なものだったら、当時の辛さやキツさを乗り切れなかったかもしれないです。
――後輩的にはゆるい分には有難いけれど、1人で仕事が出来るようになるわけじゃないですしね。
★楽かもしれないけど育ってはいかない。反対にどんなに厳しくされても、10個厳しく言われても、1個褒められれば伸びるんですよね。わたしは特に褒められた分伸びるほうなので。
――厳しさとご褒美の強弱やバランスが難しいんですよね。特にしっかり者の女性は母性が強いので、後輩に対して気付きも多くなってしまう。厳しくすることをいとわないあまり、それが時には後輩にとってお節介に映ることもあると思うのです。揉める元になる「よかれと思って」的なやつですね。豊田選手はお節介かもと悩むことありますか?
★ああ、たまにありますよ。でも、結構言わないほうかも。あたし(笑)「これ言っといたほうがいいんだろうけど、うーん、別に言わなくてもいいっか」って。もちろん、さすがにこれはと思った時は、その団体の人に言いますけど。
――わざわざ嫌われたくないというのは、先輩の本音としてもありますね。それって、優しい良い先輩になってしまう心配はないですか?
★良い先輩になってしまうわけじゃないけど、立場やタイミングもあって。
――確かに。立場やタイミングを考えない先輩はお節介に映るかもしれません。そして「お節介」を気にして後輩教育に弱気になってしまう先輩もきっといますよねぇ。
★でも、仕事の現場なら後輩は最初は右も左も分からないんだから、必要なら厳しくしてもいいかな。後輩的には腹が立つかもしれないけど、いつか「あの時は厳しかったけど」って分かってくれる日はくる。あたしも「あの先輩は本当に怖くて嫌だったけど、でもやっぱりすごいな」って人はいっぱいいるから。ただ、最初は何もできないんだから先輩を頼っていかなきゃならないけど、一定期間を過ぎてからは仕事は自分でつかんでいくものだとは思います。自分から上達しよう上に行こうとしないと、それは先輩に言われたところでできないこと。だから、後輩の立場から言うと、別にずっと先輩に面倒見てもらう必要もないかな。
――なるほど。ずっと面倒を見てあげる必要はないし、見てもらう必要もない。子離れ、親離れの話にも似てますね。
懐いてきてくれたら可愛くて仕方ない。
なんでもやってあげたいと思う。
――ところで後輩に必要なものってなんでしょうか?
★基本的なことだけど、挨拶と言葉づかいですね。挨拶も伝わるように挨拶しなければしてないのと同じだから「本当にきちんと相手に伝わる挨拶をしなさい」とは後輩に言いますね。会った時にきちんと「おはようございます」が言える子を嫌う人なんかいないと思うんです。それができれば、どこにいっても可愛がられる。
――笑顔で挨拶されたら、それだけで好印象です。距離が近づく最初のきっかけですね。
★ね。可愛がってあげたくなるじゃないですか。
――ですね〜。可愛がるといえば高校生レスラーのつくし選手と仲良しですけど、どうして面倒を見てあげたいと思う対象になったんでしょう?
★そうですね、あの子が懐いてくるからですかね。懐いてこられたら可愛いですよ。藤本も慕ってくれるけど彼女は大人だからね、抑えた感じで地味に懐いてくれる(笑)。つくしは子供だから、まっすぐ。会場で会っても真っ先に飛んできて「おはようございます!」って言いにきてくれる。
――ここでも挨拶が。
★向こうから来てくれたらうれしいですよ。それで可愛いなってなったら、先輩は何でもやってあげたくなると思う。
――挨拶からつながりができて、後輩が頼ってくれて、先輩のほうに母性が生まれるんですね。なんだか理想的な流れです。
★わたしも五紀さんのドロップキックが素晴らしいと思ったから自分で「教えてください」とお願いしたんです。本当に手取り足取り教えていただいて。そんな風に後輩の面倒を見たのはわたしだけだったって後から聞いて、本当にうれしかったです。だから、後輩たちには好きな先輩を見つけて、どんどん甘えていってほしいんです。
――憧れる先輩がいて、いつでも頼れたら、後輩としてはこんなに心強いことはないですね。
★今は女子プロレスは団体が細かく分かれていて、先輩の数が少ないんですよね。もし違う団体に好きな先輩を見つけられてもその先輩に教えてもらうことができなかったり。そういう時代だから、わたしたちの時代より後輩は大変な部分もあるでしょうね。
――少人数の会社で先輩が1人か2人しかいない職場もきっとありますしね。他の部署でも違う会社の人でも、何かしら素敵な先輩だな、と学べる部分を持った人を探し出さないと。後輩は自力で探すんですね。大変だ。
★そうですね。プロレスの付き人制度も誰が誰に付くかは会社が決めるんです。だから、まずは担当になった先輩を見習うとかね。わたしはそこで五紀さんに付いていこうと決めて、すべてを吸収して、次は自分が五紀さんを尊敬していたように、尊敬できるような格好いい先輩になれたらいいなと漠然と思ってました。やっぱり格好いい先輩でいたいです。
――格好いい先輩でありたいと思うことと、良い先輩と思われたいの2つは似ているようでずいぶん違いそうですね。特に意識してることはありますか?
★先輩だからって偉ぶる必要はないなとは思ってました。自分が新人の時、威圧感のある怖い先輩もいたんで…。こういう先輩だったらいいなという先輩を自分でやってる感じですね。あとは、んー思いつかない。あんまり細かいことは考えてないですね。付き人になった後輩は同僚から「いいなー」って言われてたみたいです。私は楽だから(笑)
――楽でいいというと誤解されそうですけど、豊田選手の付き人をしていた方たちって、スターダムの高橋奈苗選手(キレイファイター第一回ゲスト)をはじめ、エース格の選手ばかりですよね。山崎五紀さんから豊田選手、その下の世代もエースになるってことは、ずっと良い先輩の家系とも言えますよね。
★そうですね!(ニッコリ)
――奈苗選手もどこかで豊田選手がそうだったから、自分のことは自分でするって書いてました。それって「こうしなさい」と教えたことじゃなく、これは良いことだと後輩が自ら選んで真似してるってことですよね。代々、受け継がれてる。みたいな。
★そっか…うれしい…うれしい♡ 可愛い、ほんとに後輩は可愛いです♡
――そんな豊田先輩に出会えた後輩の方々も幸せですね。世代もどんどん変わっているし、全ての後輩たちと関わることは難しいとは思うのですが、会場で見かけるくらいで触れ合う機会のない後輩でも、可愛いですか?
★うん。でも、挨拶しない子はきらい。
――あ、なるほど。先輩と後輩に必要なものはまずは挨拶ですね!そして後輩のみなさん、どんどん豊田先輩に頼って甘えちゃってください〜〜!
豊田真奈美(とよたまなみ)
1971年島根県生まれ。1987年全日本女子プロレスからデビュー。1990年に総当たりシングルリーグ戦のジャパングランプリにて優勝、デビュー3年目にしてシングル王座のベルト挑戦し驚異の新人として大注目される。空中戦を得意とし「飛翔天女」と呼ばれる。全女時代にはシングルリーグ戦、タッグリーグ戦の両方で最多優勝記録を保持。2002年からフリー。30人掛け試合の敢行や自身の周年興行で全5試合に出場するなど、独自のプロレスセンスを持ち合わせ今もなおスターレスラーとして活躍している。