第8回キレイファイターは、神取忍選手率いるLLPW-Xに所属し、アイドルレスラーユニット「ブリバト♡」として活躍する「さきっぽ」ことSAKI選手の登場です。デビュー2年目の若手でありながらメイクもヘアカラーもピアスの数もタトゥーも、ダントツ目立ってるおしゃれさん。好き勝手にやり散らかしそうな風貌とは反対に、目指すは「子供たちのヒーローになること」だという彼女に、自身のヒーロー感について聞いてみました。
(※会話の中に何度も出てくる「ズ」はSAKI選手の口癖です。びっくりしたり、納得したり、溜息ついたり、そういう様々な感情を表現するマルチカードだと認識してお読みください)
プロレスは「コスチューム!!!」
って感じで着替えるので
すごく変身してる感があるんです
――ブリバト♡の試合はデビューの頃から拝見してるんですけど、SAKI選手もMIZUKI選手も最初からちょっと他の新人とは毛色が違いましたよね。コスチュームもいきなり可愛いし、MIZUKI選手は腰まである黒髪が正統派アイドル、SAKI選手は新人らしからぬ金髪にこなれたメイク。まるで「レスラーらしくない」。
★む!あたしたち、2人ともプロレスを知らずに業界に入っちゃったんです。ブリバト♡のオーディションの内容が「プロレスが得意な歌とダンスができるユニット」で、これプリキュアとかに似てるじゃん!と思って入ったので、プロレスラーらしくありたいって思いはあまりないのかもしれないです。小さい頃は夢の中でいつもセーラームーンになってたので、強くって、可愛くって、歌って踊れる、それがあたしの中の最強なんです☆
――プロレスを知らないままレスラーに???これまた異色ですね。
★いつも、みずぴょん(MIZUKI選手の愛称)と、2人でプリキュアみたいになりたいねって話してるんです。自分も小さい頃、可愛くてカッコいい人に憧れてたので、そうなりたいんです。「近い人」になりたいという思いもあって、大きなステージに立ってたくさんの人がワーっていたら嬉しいですけど、でもどっちかって言えば相手の顔が子供たちの顔が見えるところがいいなと思っていて、自分が考えている距離感はアイドル活動もプロレスもつながってるかもしれないです。
――プロレスもアイドルもみんな日本武道館や東京ドームを目指すものなのに「相手の顔が見えるところ」だなんて、意表をつくなーこの人は。意表をつくと言えば今回のテーマ、もともとSAKI選手の「ヒーローになりたい」という発言そのままなんですが、自身のデビュー曲の振りの中でスぺシウム光線出してますよね。この人けっこう本気だな、変わってんなと思いました。
★ええー!ズ!だってプロレスとアイドルとヒーローって近いんですよー。しかもプロレスは「コスチューム!!!」って感じで着替えるので、一番変身してる感があるんです。
――確かに新日本の棚橋選手も仮面ライダーが好きすぎてライダー的コスチュームだし、NOAHの丸藤選手も被り物がどんどん増えてますけど。
★やっぱりヒーロー目指してる人って多いと思うんですよ!!!
――いやいや、おふたりとも男子レスラーだし。女子レスラーで堂々とヒーローになりたいと言ってる人、見つからないですよ。そもそもSAKI選手にとってヒーローって、どんな存在ですか?
★悪いことされた時に助けてくれる人ですかね。『アンパンマン』はすぐ飛んできてくれるし、『セーラームーン』も平和な街を襲う妖魔から守ってくれるし。その人にとってヒーローって違うので一概には言えないですけど、『ドラえもん』ものび太クンにとってはヒーローだし、『キテレツ大百科』のキテレツも友達みんなにとってはヒーローじゃないですか。『こどものおもちゃ』の紗南ちゃんも大好きだったんですけど、彼女もいつも友達のこと考えてて困ったらいつも助けてくれる。好きなアイドルがいたら、それも自分にとってはヒーローになりえるし。「あの人に会えるから頑張ろう」って。自分の中にいろんなヒーローがいるんです。
――確かに、ヒーローってひとくくりにしてしまいがちだけど、いろいろなタイプがいますね。では、それらのヒーローに憧れて今がある?
★もう1人というか、もう1組、小学校の時から中学校高校と憧れ続けたヒーローがいるんですけど。あたしの小学校時代のヒーローが『野猿(やえん)』なんです。
――え!意外!すごい意外!!!『とんねるずのみなさんのおかげでした』の番組スタッフで結成された音楽ユニットですよね!?
★野猿って同世代のサラリーマンのヒーローだったじゃないですか。普段は別の仕事をしてるおじさんたちなのに、頑張ってダンスしてる姿にきゅんとしてしまって♡小さい頃はアイドルになりたかったんですけど、野猿に出会ってからは裏方になることにしたんです。吉本の学校を出たんですけど『みなさんのおかげでした』のスタッフになりたかったので、その制作会社の募集が来るまでずっと待ってました。フジテレビの社員食堂で働きながら。
――えええ〜、根性あるなあ。もう、そこしか行く気はなかったと。
★はい。で、その制作会社の仕事が来て受かったんですけど、「おかげでした」ではなく『おはスタ』のADになりました。当時関東ではまだ無名だったエハラマサヒロさんが爆笑戦士として出演してたんですけど、小学校に行くと子供たちがすごい喜んで、ギャーギャーギャーってすごかったです。ほんとに子どもたちに人気者のエハラさんなんですけど、ADたちのことも楽しませてくれるんです。収録中なんですよ、その一瞬のカメラが自分を映してない時にADに面白い顔してくれるんですよ。当時やっぱり寝てないし疲れてるしだったので、あたしたちのヒーローでしたね。
――疲れてて心折れちゃいそうな時も、そういう助けがあるから頑張れる。
★ほんとにそう!そんなエハラさんを見て、番組が終わった頃には「わたしはやっぱり出る側になりたかったんだな」と。そこで会社に辞表を出すんです、ふふ。子供たちの番組に関わって、目の前で本当に子どもたちが爆笑戦士にワーってなるのを見てしまったので、その時子供のヒーローになりたいなーと目覚めた気がします。でも、友達が言うには「ちっちゃい頃から自分のこと「さきちゃんマン」って呼んでた」って。自分ではあんまり覚えてないんですけど(照れっ)
人の役に立ちたいと心で思ってても
「なにカッコつけてんの?」ってなるから
行動に起こしずらいんですよね
――アイドルだったり、さきちゃんマンだったり、誰かの助けになりたいって気持ちだったり、遍歴はいろいろでも実は正義感への憧れがブレてない。しかも、大人になった今(さきっぽは26歳)もヒーローになりたいなんて、純粋すぎてびっくりです。今どきは小学校高学年になると正義感が実は損な役回りであることや儲からないことも、気付いてる子供いると思うんですけどね。
★はええええー、なんでっ、そんなこと言うんですかぁっ!!! 夢がない!ズ!やだ、やだー、そんなの(泣)
――そんな時代来てると思いますよ。だって、お母さんお父さんが正義感に対して冷めてたらだめでしょう?「○○ちゃんはウルトラマンになりたいんだ?がんばれ☆」って言ってくれるかなあと。そりゃ、言ってあげてほしいですけど。
★ええぇぇ〜、ほんとですか?ないない。信じないー。
――そもそもヒーローになりたい人が少ない気がするんです。SAKI選手が話してたように魔法少女や戦隊じゃなくても、誰もが誰かのヒーローになれる可能性があるんです。でも、時間はないし疲れはたまるし、損得でモノを考えてそれを声高に言うことが良いとされる風潮もあったりして。「人の役に立つ」ことは必ずしも報われないし、自己犠牲は伴うし、地味な場合も多いんですよね。反対に「役に立ってる感」は、自分の爪痕を残してナンボだし、ここぞのアピールに使えるし、無駄なく見返りがある方法を選びたくなるかなあと。
★確かにヒーローって疲れちゃうこと多いですもんね。見返りないですもんね。わたしだけじゃないと思うんですけど、日本人の人って、人の役に立ちたいと心では思ってても「なにカッコつけてんの?」ってなるじゃないですか。そう思う人がめっちゃ多い。小学生の頃はまだ少ないけど、中高になると多くないですか。だから、やっぱり思ってても行動しずらいってところもある気がします。だから、その中で純粋に人のために役に立つことができてる人はすごいんです。うちの団体は、けっこう被災地やほかのボランティアを熱心にしていて、ブリバト♡も一緒にお手伝いするんですけど、普通の会社に入ったらそういうの少ないだろうなとは思ってます。3月11日には毎年「行くぞ!」って、街頭に立つんです。今年はわたしは新宿と新橋に行ったんですけど、それって実はすごいことだなって。あたし1人では絶対できない。
――そばにいる人生の先輩が人の役に立つこと、カッコいいことをしに先頭に立ってくれる!それ素敵です。でも、みんな、きっとそういう気持ち忘れちゃってるんだろうなぁ。正義感は心の支えになりえるものだけど、反対に夢や正義感を持っていることで、今の生活が生きずらくなることもありそうです。
★ええ〜、でもそんなのって。わたしはそれ持ってないとダメです。たまに分かんなくなっちゃうんです、普通に生活してると…。
――ヒーローになりたいSAKI選手がそうなら、お勤めしているみんなはもっと分かんなくなっちゃうと思います。
★あの、子供たちのヒーローになりたいんですけど、でも、同世代の人にとっても、そういう存在になりたいんです。「できんじゃん。まだ、自分できんじゃん」みたいな。社会に出て何年もするといろいろあって、でも、まだできるって20代後半の同世代の人は思ってるだろうから。たとえばわたしは体育の授業はサボるし部活も入んないし、そんな人間が今プロレスやってる、できてるってことも何かの力にならないかなとか。ああ、でも、それだけじゃなくて、変身したいからなぁ。変身…うー。
――急に「変身」が出てきたところで少し突っ込んで聞いちゃいますけど、リングの上から夢や元気を与えることってレスラー全員やってると思うんです。でも、実際にヒーローになりたいSAKIとしては、どんな活躍をするのか、どんな風に人の役に立ちたいのか、具体的なところはどうなんでしょう?
★わたしが描くヒーローは何をするかってことですよね?どんなこと…どんなこと…。ふえー、ムズカシイ!
――たとえば、おばあさんが重たい荷物持ってて横断歩道が渡りきれずに大ピンチ!な時に、あたし今レスラーだし片手で担いでホイホイホイ―♫みたいな。
★エッ、だって片手で担げないし…。
――え!どしたどした???
★ううーー。呼ばれたら飛んでくくらいしたいですけど。ほんとにどんな些細なことでもいいんです。ただ元気がないから喋りたいとか、そんなんでも…。でも、練習とか仕事もあるし、実際飛べないし…。ああ〜、やっぱり変身しなきゃ。
――やっぱり変身?どうして変身しなきゃいけないんですか?でも、SAKIは元気で明るくて目立つ存在で、物語にありがちな普段冴えない女の子じゃないから、変身なんてしなくてもいいじゃないですか。
★えええぇぇぇ〜、冴えないですよぉ。なんもできないもん。練習やプロレス教室(女性限定プロレス教室の先生もしています)の時なんて100%スッピンだし…。
――スッピン関係ないでしょう〜。あれですね、外見の雰囲気から行動力があって後悔なんてしない女の子だと思ってたんですけど、すこし違うんですね。「本当のわたし」を探してる。今のわたしは理想からは遠くて、なんにもできてない、これは違うの、もっとできるはずって。変身できたら、飛べたらきっと!どんな女子でも持っている変身願望なんですね。
★え!?ズ!
――でも、目の前にいる「さきっぽ」のままでもヒーローになれるはず。
★あの……こないだの、広島の土砂崩れの時に行方不明の方のニュースを見ていて、まだ娘さんが行方不明のお母さんが「生まれたままの体で出てきてほしい」って言っていて。考えたらすぐに分かることなんですけど、生まれたままの体で出してあげることさえ難しい状況なんだっていうことに気づいたんです。瓦礫がある現場だからショベルカーを使うし、使わないと早期発見は難しいし…。でもたとえシャベルやスコップでさえ体にささっちゃう。自衛隊の方々も早く見つけようと頑張ってくれてるんです。でも、もし、自分がその場で大切な人が見つかるのを待っているかと思うと、なんというかやるせない気持ちでいっぱいになってしまって…。そんな時に自衛隊の人がいなくなった後の深夜から朝方に手で掘って探してる方々がいらっしゃるというお話を聞いて。それって家族の方たちにとってはスーパーヒーローだと思ったんです。
――ですね。
★立入禁止の場所だからほんとは入っちゃいけないところだし、ほんとはやっちゃいけないことかもしれないけど、それを聞いてめちゃめちゃ感動して。捜索活動を必死に頑張ってくださってる自衛隊の方のことも尊重してるし、なによりも同じ気持ちになって行動を起こしてる人がいるってことがご家族の方にとってすごく心強いことだと思ったんです。人の気持ちに立って行動を起こせるって、すごい勇気だと思います。本当にヒーローと呼ぶ以外ない。
――ルールを破ることだと知っていながら、それでも「これは助けるべきところ」だと、自分で判断して動ける人たち。使命を感じた瞬間に誰でもヒーローになるのかもしれないですね。
思っていることを行動に移すのは
当たり前じゃない
むずかしいんです
――お話聞いてると、ヒーローになろう!という元気な気持ちと、どうすれば?という悩みとの間を行ったり来たりしてますね。
★いろんな葛藤があるんです。たとえば、喧嘩してる子たちがいたら喧嘩を止めたいけど、そこであたしが悪いほうをやっつけるとしたら暴力になっちゃう。それならいじめてる相手を後ろからおさえて、やられてた子にはやり返していいんだよって言ってあげたいし、いじめっ子には君がしたのはこういう痛みなんだよって知ってほしいし。
――マジメ!マジメすぎ!紗南ちゃん(こどものおもちゃ)なんて、いつもぶっ飛ばしてたじゃないですか。わたしだって全然やり返せばいいと思うもの。暴力ふるわないでとか、そりゃ考えすぎですよ。変身したいなんて言いながら、実は地面に足のついた地味なこと考えてる。
★あら!え?ズ!
――助けてって言われても一瞬で飛んでいけないことのもどかしさや、心では思っていても体が動かないという葛藤が、より拍車をかけて動けなくなっちゃってませんか?
★思ってるんだったら「やればいいじゃん」て言われてしまうけれど、思っていることを行動に移すのって、ほんとにすごいことだと思うんです。それができる人がすごいんです。当たり前じゃない、むずかしいんです。
――なるほど。行動できないっぽい雰囲気が伝わってきますね。「いつかしたい」「これがしたい」って話がなかなか出てこない。まだ言葉になってない。今の自分がどんなに未熟であれ、あれがしたいんだって言ってしまっていいと思うんですが。
★ブリバト♡のSAKIとしてしたいことと、普段のさきっぽとしてしたいことと、そこも考えちゃうんです。でも、たとえばセーラームーンは美少女戦士の時はキラキラ戦ったり、キラキラ歌ってるところもありつつ、変身してないときは地味にボランティアしててもいいですよね。
――いいですよ!むしろそうでなくっちゃ。
★憧れられる存在に…なりたいんです。なりたい。
――「憧れる側」から「憧れられる側」に、その入り口に立っていいよ☆と選ばれた存在であることに間違いないです。でも、ヒーローストーリーで言えばエピソード0なんですよね。まだ、覚醒してない。覚醒前夜なのか、もっともっと前なのか、それも未知。だからこそ、今はなにもできないと言ってる女の子が踏み出す一歩はとてもキラキラしてると思います。楽しみです。
SAKI(さき)
1988年千葉県生まれ。井上貴子プロデュースのアイドルレスラーオーディションにて約200人の中から選ばれ、MIZUKIとともに「ブリリアントバトルガールズ♡」を結成。2012年12月29日LLPW-Xからデビュー。LLPW-Xと我闘夢舞を主戦場として活動する。10月11日に両国国技館大会を控えている。
ブリバト♡オフィシャルブログ
http://www.diamondblog.jp/llpw-x/buribato/