『キレイファイター』第4回目は、東北唯一の女子プロレス団体、センダイガールズプロレスリング(通称仙女)の社長兼エースである、里村明衣子(さとむらめいこ)選手が登場。たった15歳で団体の後継者に指名されるほどに異例の強さと実力を持つ、現女子プロレス界の強さの象徴です。情熱的な真っ赤なコスチュームから繰り出される技は強く鋭く、まさに百発百中。ベテランになった今も「実力の裏に練習あり」を体現しつづける里村選手に、どうしたら練習を好きになれるのか、続けられるのかお聞きします。女の本質も指摘されてしまった今回のインタビュー、大人女子必見です!
「できるようになった」からといって
毎日継続しなかったら、先はないんです。
わたし自身の悩みでもあるのですが、習い事や勉強を始めたときに「練習」でつまづいて続かないことが多いんです。率直に「練習って嫌いだな」と思ってしまう。で、そもそもなんで練習嫌いなんだろう?と思いまして。里村選手はデビューしてから18年分の練習キャリアがあるわけですが、そもそも練習ってお好きですか?
★だっいすきです。基本的に練習が好きなんですね。
――あ、やっぱり…。才能のある方は練習の才能もあるんじゃないかと思ってたんです。
★そんなことないです。15歳でプロレス入門した当時は朝8時から夜8時まで、食事の時間以外はずーっと練習で、もうほんと修行というか、部活で言えば合宿がずーーっと永遠に続いているみたいで辛かったですよ。好きだった練習といえば…うーん、師匠である長与さんが技術面について語ってくれる時間があって、エルボーは角度をこうやると格好いいとか、こういうのは格好悪いとか、その語りの時間だけは大好きでしたね。話を聞いている間だけは休めるので。
――な、なるほど。好きな練習は休める時間というくらい厳しい練習をさせられていて、嫌にならなかったんですか?
★だいたい何で練習が嫌いかって、強制的にやらされてるからなんです。それが、練習を一度自分のものにしちゃうと今度はやりたいこと、欲が出てくるんです。自ら練習がしたくなる。当時は、プロテインが出始めで、ジムで筋トレをするプロレスラーが増えてきて、それが新しくてやりたくてやりたくて!わたしは付き人をしていたので自由な時間がなくて行けなかったんですけど。体系も絞って筋肉をきれいに見せたいなって思い始めていた時期でした。でも、体が小さい分10堊量するように言われて。
――それです!「強制的」。一度やらされてる感を感じると、嫌になることでいっぱいいっぱいになっちゃうんです。でも、里村選手はそこを越えて、練習に対して欲が出てきたのに、したいことができなかったんですね。
★もう、真逆でしたね。増量した結果、上の選手にも勝って結果も残せました。ところが週刊プロレスに載った自分の写真は顔がパンパンで醜くて…。もう掲載ページを開くのも嫌でしたね。だからいつか、もっと強くなって自由になったら理想を追い求めようと決めてました。
――となると、今は当時のような練習はもうされてないんですか。
★それが、わたし、数をこなすっていうのは絶対的に必要だと思うんですね。たとえば腕立て伏せ50回やるよりもバーベル50圓離戰鵐船廛譽垢10回上げたほうが時間的には効率がいいし、筋肉の負担も負荷も同じなんですけど。でも、基本を身につけるためには、数と時間て圧倒的なんですよ。プロレスは特に大怪我につながる危険性のあるスポーツなので、憧れだけでリングに上がっちゃいけないよという部分と、あとは最低限の毎日継続する練習を気持ちから植えつけないといけないんです。これは、運動以外でも同じで「できるようになった」からといって毎日継続しなかったら先も長くないんです。だから最初の3年間はみっちり数をこなさせるんですけど、そこからは自分のやりたいスタイルでやらせています。自分のアイデアで管理できるようになると、練習は楽しいんです☆
砂漠の遊牧民の本を読むと、
好きな時に水が飲めて、好きな時に練習ができて幸せじゃんと思うんです。
――練習といえば、煮詰まる瞬間が必ずあると思うのですが。充実感のある練習をしていたはずが、このところ自分の中で成長が見られない、ステップアップできない、なんか満足感がない……。
★ああー、それぜーったい必要なんですよね。煮詰まると自分の考えの限界とか自分のつまらなさに気付くんですよ。たとえば毎日10分間のスパーリング(リングでの実践練習)を同じ相手とする。当然引き出しがなくなって、自分のやってるスパーリングがつまらなくなるんですよ。で、なんで毎日同じことしてるんだろう?自分て何してるんだろう?ってなってしまう。そもそもなんでこんな同じことを毎日やらなくちゃいけないんだ???とか思っちゃう。
――誰もがつい、モノとか人とか仕事のせいにしてしまいがちですよね。でも、里村選手も練習生時代好きな練習はなかったと仰っていましたけど、そんな中、どうして楽しみを見つけられたりするんでしょうか?
★わたしは常に自分の好きなことを周りに置いておくようにしています。憧れの女優さんもいっぱいいて、過去には日本舞踊やヒップホップをやってみたり、仕事も趣味もすべて自分が向上するために置いてあるんです。
――聞いているとなるほどなんですが、やっぱりそこがなかなか…。たとえば資格取ったから終わりじゃないし、より自分を向上させたいっていう気持ちは女子は全国共通ではあるはずなんですが。
★そうですねぇ。でも、女はみんな持ってるものは同じだと思います。
――いやいや、同じじゃないですよ!!!わたしを含め読者の方も、自分を向上させることができて、活躍されてるレスラーの方はギフトを授かった人だと思ってしまいます。
★そんなことないですよ。女はみんなナマケモノなんです☆
――褒め言葉が出るのかと思いきや、ズドンと谷底まで落としましたね。
★ふふ。わたし女の集団に20年いるので分かるんですけど、頭は真面目だけど言わなきゃ動かない人がほとんどです。女は横でしか比べないんで、良いほうに連鎖すれば相乗効果でパーッといくんですけど、やっぱり人のせいにしたり愚痴が多い。だから誰かがポンと抜けて気持ち切り替えていかないとダメなんです。
――じゃあ、練習の煮詰まりなんか悪い空気流れたら、みんな芋づるで落ちちゃいますね。励ましあって頑張れる友達が必要なんですね。マラソンで最後まで一緒に走ろう♪的な。あれ、絶対どっちかが裏切りますよね(笑)。話は戻って、練習の煮詰まりは過去に何度も経験されてると思うのですが、抜ける瞬間の定番みたいなものはありますか?
★わたしは「なんでこんなことしてるんだろう…」って思ったり、自分の中に愚痴がたまってきたりすると、よく本屋に行きますね。エッセイやドキュメント、ノンフィクションが好きなんですけど、特に砂漠の遊牧民の本が大好きなんです。砂漠に住んでる人たちって、一日のうち決まった時間に少量の水しか飲めない、でも延々歩いてる。すべてが自給自足。それを読むと「わたしなんて好きな時に水も飲めて、好きな時に練習できて、この人の人生に比べたら自分なんてなんてことないな」って(笑)。
――自分より大変な状況を並べて比べてみる!いいですね、それ。自分がいかに辛いかってことを加速させる方法もあるし、そこから抜ける方法もあるんですよね。しかも「好きな時に練習ができる」って、練習が幸せの象徴みたいになってる!
★変なところで極端な比べをしてみたりして、ふふ。でも「なんだ全然幸せじゃん」って頑張れたりするんです。
場所がないから練習できないっていう理由を
自分の中に植えつけちゃうと、できなくなっちゃうんです。
――ところで、現在は選手はだけでなく社長業も兼任されてますが、必要な練習量をこなす時間はあるんですか?
★もう今は1日2時間に短縮しました。
――1日2時間だと……短いですね。
★短いです、すっごい短いです!なので、まずサーキットトレーニングといって体を温めるため腕立て50、腹筋50、背筋50、スクワット50、これを5セット。そこから筋トレ入って、あとは自分の実践練習ですね。最近は新潟や東京に行くことが多いので、リングが使えないときはスポーツジムや外でやってます。
――出張仕事が入ると1日2時間を確保するのも大変な日がありそうですね。それでもかならず?
★夜、食事会があって、その時は飲まないですね。飲まないで、終わって帰ってきてから外で練習したりとか。
――どこでも練習はできるんですね。
★できるようにしないと、場所がないからできないっていう理由を自分の中に植えつけちゃうと、もうできなくなっちゃうんで。
――でも「外で」って言われても、どこなんだろう?って思っちゃうんですけど。
★ぜんっぜん、もう階段さえあれば。たとえば公園の階段とか、あとは6畳くらいの場所があれば全然できますね。6畳の場所ではミットのない蹴りの練習くらいしかできないですけど。
――階段がマストなんですね。
★そうですね、絶対階段見つけます。10段以上の階段を♪
――これだけあればという、その2つの条件はすぐ見つかったわけじゃないですよね?「10段以上の階段」と「6畳のスペース」、ここにはどうやって辿り着いたんですか?
★2011年の震災の時に道場が閉鎖したんですよ。選手も減って半年間道場のない状態で。自分自身も気持ち的に落ちてどうしようかなと思っていた時に、ないものを理由にして辞めることはいくらでもできるなと思ったんです。道場がないから練習ができないとか、試合がないから引退とか団体解散とか、そんなのはいくらでもできるって。だけど、あるものできることを見つけてやるほうが絶対先が見えるなと思ったときに、各地に散らばっていた選手をもう一度集めて、当時ランニングコースだった公園に行って、「ここに階段あるじゃないか。ここでトレーニングすれば道場なんていらないよ」っていう考えにして、公園の芝生の上をリング代わりにしてスパーリングしたりしてました。そこでしたね。
――先ほど、今日のランニングコースを確認して各々で走りに出てゆく選手の皆さんを見ました。なんとも言葉が出てきませんが、すごく自由でのびのびとした印象でした。では最後に、なにかプロレス以外で練習していることはありますか?
★あの、わたし練習になると男みたいになっちゃうんですよ〜。フンッ!フンッ!とか言って。ほんっと自分が男なんじゃないかと思うくらい。でも、やっぱり華も必要ですし、30代なので女性としてもどうかなと思っていて。それで、練習したあとにはキャメロン・ディアスの映画をよく見ますね。
――それは、つまり、女子力を上げようということですかね。
★ふふ。もう、キャメロン・ディアスのあの可愛さと弾けてる感じがすごい好きで!見ちゃいますね〜。憧れの女性がほかにもたくさんいるので、そのDVD見たりとか。
――女子力の練習は意外でした。普通にお料理とかかなと思ってたんですが。
★あ、お魚さばけるようになりたいんです!どっか魚屋さんに弟子入りして教えてもらいたいんですよ。結婚とか恋愛にあたって、魚さばけないのは大きな壁になるかと思ってるんです。
――え!?な、ならないですよ!
★ダメなんですよ〜。料理もほんとに適当で、20分くらいですませちゃうので。
――ていうか、それ料理上手じゃないですか!いやいや、あの、里村選手はむしろ練習しすぎというか、もう練習しなくて大丈夫です!
里村明衣子(さとむらめいこ)
1979年新潟県生まれ。1995年GAEA JAPANからデビュー。類まれなるプロレスセンスを持ち、長与千種の後継者として育てられる。2005年センダイガールズプロレスリングを旗揚げ。数々の壮絶な試合を越えてきたその実力から、他団体でのビックマッチやタイトル戦、新人選手のデビュー戦のオファーが多い。
センダイガールズプロレスリング公式サイト
http://www.sendaigirls.jp/