迷うことはたくさんあるけれど、箇所箇所で人生の先輩が現れるから大丈夫。学校の先生や会社の先輩、本を開けば会える言葉たち。そして40代の半ば、津端修一さんと津端英子さんに出会った。90才と87才の建築家夫婦の暮らしを映すドキュメンタリー『人生フルーツ』。
戦後最大の都市計画と言われた高蔵寺ニュータウンを設計した修一さん。その後も幾つもの団地やニュータウンを手掛け、その世界ではとても著名な人なのだそうだ。物語は畑と雑木林と30畳のワンルームの家で営まれる、老夫婦2人の暮らしを淡々と追いかける。ごはんのシーンが多い。収穫のシーンが多い。合間に高蔵寺ニュータウン着工時の話がはさまれる。
団地好きの友人の影響で最近すこし団地びいき。桐が丘団地と赤羽台団地は時折歩きに出かける。修一さんがちょいちょい「雑木林と風の通る道を提案していたのにな」と漏らしていたことを思い出し、映画が終わってから友人に昨年から用事で通っている「板橋サンシティ」の話をする。もしかしたら修一さんの言う「雑木林に囲まれた巨大住宅」はこれじゃないだろうかと。サンシティ板橋の竣工は1980年代。ベビーカーのママたちと多くすれ違うこの大きな町は現在も生きていて、どうやらここで育った子供たちが親になってまた戻ってくるのだとか。「2世帯近居」という言葉も生まれているらしく、知らないところで新しい暮らしが育っていたことに驚く。
人生の先輩の仕事からつながるものが、近所にあったなんて、歴史を見ているような不思議な気分。人生フルーツ鑑賞済みでニュータウンに触れたくなった友人たちを、サンシティ板橋に誘いたいな。